九谷焼 吉田屋風とは、九谷焼の中でも独特の色彩美を誇る画風で、江戸時代後期に加賀の豪商・豊田伝右衛門によって築かれた吉田屋窯から始まりました。吉田屋窯の技法とデザインは九谷焼の歴史に大きなインパクトを与え、現代でも多くの作家や窯元でその作風が取り入れられています。
吉田屋風はその独特の色使いや技法によって、九谷焼の中でも特に重要な位置を占めています。
1824年、豊田伝右衛門が文政年間に開窯した吉田屋窯は、古九谷の再現を目指して九谷村に築かれました。古九谷は、江戸時代初期に作られた鮮やかな色彩と豪快なデザインが特徴の九谷焼ですが、数十年で廃窯となり、その技法は一度途絶えました。
豊田伝右衛門は、かつての栄光を取り戻すべく、古九谷の技法を復活させることを目指しました。この挑戦は、当時としては非常に大胆な試みであり、彼の文化的使命感と芸術への情熱が強く表れています。
伝右衛門は、この再興を成功させるために、陶工の本多清兵衛と粟生屋源右衛門を招き、共に青手古九谷の技法を再現することに取り組みました。
彼らの手によって生み出された「青手」の作品は、青、緑、黄、紫、紺青の四彩を用いて器全体を塗り埋める独特のスタイルを持ち、「青九谷」とも呼ばれることとなりました。
吉田屋窯は、開窯から7年ほどで閉じられることとなりましたが、その影響は非常に大きく、九谷焼の歴史に深く刻まれました。
吉田屋窯で作られた作品は、独自の技法と美しさによって高く評価され、現在でも回顧展が行われるなど、「九谷焼」の代表的な作品とされています。
吉田屋風の特徴は、赤を使わずに青手古九谷の塗り埋め様式を再現し、器全体が青い色調で統一されることです。厚く盛り上げた九谷独特の盛絵具によって器に立体感を与え、深みのある色彩と重厚な質感を生み出します。
また、吉田屋風のデザインは、草花や山水などの自然をモチーフにした図柄が特徴です。これらの図柄は、豪快で力強い筆遣いで描かれ、そのデザインは非常に精密でありながらも、どこか温かみを感じさせます。
吉田屋窯は、現代の九谷焼作家や窯元に多大なインスピレーションを与え続けています。特に、吉田屋窯の作品が持つ「工芸美の典型」とも言える美しさは、多くの研究者やコレクターにとっても非常に価値のあるものとされています。
吉田屋窯の閉窯後、その技法とデザインは他の窯元や作家によって受け継がれました。青手の技法は、粟生屋源右衛門の門下生である松屋菊三郎(後の松本佐平)によって蓮代寺窯や松山窯で完成度を高められ、現代に至るまで続いています。また、吉田屋風のデザインは、九谷焼の伝統を守りながらも新しい表現を生み出すための重要な手法として、現代の作家たちによって巧みに活用されています。
吉田屋風は、豊田伝右衛門の古九谷を復活させたいという熱い思いにより生み出され、芸術性や品質において古九谷に迫るものと高い評価を受け、九谷焼の歴史に深く刻まれた画風です。青手古九谷の再現を目指した吉田屋窯の技法とデザインは、現代でも多くの作家や窯元が参考にし、自らのフィルターを通して新たな表現を模索しています。現在でも行われる吉田屋作品の作品展は人気を博しており、吉田屋風の作品は、伝統と革新が見事に融合した九谷焼の真髄を体現しているといえます。
「加賀 伝統工芸村ゆのくにの森」の館内には「色絵芭蕉葉文平鉢」をはじめとする古九谷から、吉田屋窯、松山窯、宮本屋窯の再興九谷、近代・現代作家の作品が展示されていますので、ぜひ訪れて見てはいかがでしょうか。
・加賀 伝統工芸村ゆのくにの森:https://yunokuninomori.jp/museum/dentomuseum/