コラム
 古九谷 論争の深層解析:歴史的背景と考古学的発見による新たな展開
 古九谷 論争の深層解析:歴史的背景と考古学的発見による新たな展開
2023.01.15 #九谷焼の絵柄

古九谷 論争とは

17世紀初頭、日本で初めて磁器が焼かれた有田では、1640年代に色絵磁器の製造が成功しました。同時期に九谷でも磁器窯が築かれ、九谷焼が誕生したとされていますが、その活動は約50年で途絶え、謎に包まれたままでした。19世紀に九谷焼が再興される際、これらの古い色絵磁器が「 古九谷 」として称され、現在に至るまでその起源や製造地に関する議論が続いています。この「古九谷論争」は、日本陶磁史において非常に重要な位置を占めており、これまで多くの学者や研究者が議論を交わしてきました。

九谷焼 古九谷窯跡

古九谷 有田説の提唱とその背景

昭和20年代に提唱された「古九谷」が有田産であるという説は、戦後の日本陶磁研究に新たな視点をもたらしました。この説の根底には、有田の柿右衛門様式と古九谷様式の間に見られる技術的・デザイン的な共通性があります。これにより、古九谷が実際には有田で製造され、九谷の名称は後に与えられたものであるという仮説が浮上しました。

1956年にロンドンで開催された「日本の磁器展」では、ジェニンス氏が古九谷様式の色絵磁器を有田産と提言し、世界的な注目を集めました。彼の主張は、当時の国際的な陶磁研究においても大きな影響を与え、日本国内外での議論が活発化しました。有田説を支持する研究者たちは、有田の色絵磁器が古九谷と同様の技術と美的感覚を持っていたことを強調し、その発展過程において九谷窯との繋がりを示唆しています。

 

九谷焼 東京大学

考古学的アプローチによる証拠の蓄積

昭和40年代以降、日本各地で行われた考古学的発掘調査が、古九谷の製造地に関する新たな証拠を提供しました。有田の山辺田窯跡や丸尾窯跡から出土した古九谷様式の磁器片は、当時の製造技術とデザインが有田での生産であることを強く示唆しています。また、1980年代には東京大学本郷構内の遺跡からも同様の磁器片が発見され、化学分析によって有田産であることが確認されました。

九谷焼 陶片

これらの発見は、有田説を支持する強力な証拠として受け取られています。特に、X線蛍光分析や同位体比分析といった科学的な分析手法が導入され、素地や絵付けの成分が有田産であることが示されることで、有田説がますます強化されました。こうした科学的アプローチは、考古学的証拠の信頼性を高め、歴史的な文献だけでは解明できなかった側面を明らかにしています。

 

古九谷 九谷での生産の可能性と新たな発見

一方で、九谷でも色絵磁器が生産されていた可能性が、発掘調査によって明らかになりつつあります。昭和45年から52年にかけて行われた九谷古窯跡の調査では、色絵素地や磁器片が出土し、九谷における独自の製造活動があったことが示されています。2008年の調査では、九谷古窯の前方からも古九谷様式の磁器片が発見され、さらに平成に入ってからの九谷A遺跡でも色絵磁器片が出土し、絵付窯跡も検出されました。

これらの発見は、九谷でも古九谷様式の磁器が製造されていた可能性を示唆しており、従来の有田説に対する新たな視点を提供しています。また、九谷での製造が有田からの技術移入によるものであったのか、独自に発展したものなのかという点についても、さらなる議論が求められています。

九谷における色絵磁器の製造は、江戸時代の加賀藩による政策的な支援の一環であった可能性があり、その背景には藩の経済的・文化的な意図が見え隠れします。この時代背景を考慮することで、九谷焼の位置づけがさらに明確になり、産地論争に新たな方向性をもたらすことが期待されています。

最新の研究と展望

古九谷論争は、単なる産地特定の問題を超え、日本の陶磁器史における文化的背景や技術伝播の研究に新たな視点を提供し続けています。最近発見された大聖寺藩主・前田利鬯の書簡では、古九谷が藩由来のものであると認識されていたことが確認され、産地論争に新たな視点が加わりました。この発見は、古九谷が単なる商業品としてではなく、藩の文化政策の一環として制作された可能性を示唆しています。

現代の陶磁研究では、科学的な分析手法の進歩により、製造技術や材料の出所に関する新たなデータが次々と提供されています。特に、X線蛍光分析や同位体比分析といった非破壊的な検査法が、古九谷の産地特定に向けた新たな手掛かりを提供しており、これにより論争のさらなる展開が期待されています。また、3Dスキャン技術やデジタルモデリングを活用した比較研究が進められており、これらの技術が産地特定の新しい視点を提供する可能性も探られています。

九谷焼 書籍   九谷焼 書籍

まとめ

古九谷論争は、単なる産地特定の問題にとどまらず、古九谷が日本の陶磁史において非常に重要な位置を占めていることを示しています。この論争は、古九谷の作品が持つ独自の魅力と、その歴史的背景に対する多くの研究者の関心の高さを反映しています。古九谷は、今もなお多くの人々の心を捉えて離さない、永遠の魅力を持つ作品群であり、その謎を解明するための研究は、今後も続けられていくことでしょう。

また、産地論争が解決されることによって、日本陶磁器の歴史に新たな一ページが加えられることが期待されています。研究者たちは、古九谷の魅力を再発見し、その製造技術や背景を解明することで、九谷焼の伝統とその価値をさらに高めていくでしょう。

大志窯でも古九谷の画風で制作した古九谷風の商品は人気商品です。

是非ご覧ください:大志窯オンラインショップ

九谷焼 大志窯  九谷焼 大志窯

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